「宇宙は何で出来ているのか」----素粒子物理学で解く宇宙の謎
村山 斉著
第4章 湯川理論から小林・益川理論へ
強い力、弱い力
<ミクロの世界で働く、「強い力」と「弱い力」>
★未知の粒子の重さを予言していた湯川理論
「強い力」が届く範囲は原子核の直径程度だと考えられます。これは、その力を伝える粒子が重いことを意味します。
陽子おエネルギーを「寸借」して中間子をつくります。その力の到達距離が短いということは、借りたエネルギーを返すまでの時間が短いということにほかなりません。すると、時間と不確定性関係から、借りるエネルギーは大きくなります。そして、エネルギーが大きいということは、相対性理論から質量が大きいということです。
★湯川粒子はアンデス山頂で見つかった
ミューオンはその予言どおりの重さでしたが、性質はどうみても「電子のお兄さん」のようなものでした。それに
ミューオンは「強い力」を伝えません。それを確かめたのは、イタリアの物理学者でした。ともかく、ミューオンは湯川理論が予言した中間子ではありませんでした。
ある研究グループがふと気がつきました。
「中間子はミューオンよりも寿命が短いので地上まで届かないのではないか」というのです。
ミューオンは宇宙線から検出されましたが、実際に宇宙から降り注ぐ粒子はほとんどが陽子です。陽子が上空で空気の原子核と反応して、ミューオンが出来る。そこから地上に降ってくる〔しかも相対性理論どおりに時間が遅れて寿命が延びる)ので、そんなに長生きの粒子ではないものの、地上に届くまで壊れません。ならば、中間子の寿命がミューオンより短いとしても、もっと高いところで探せば見つかる可能性があります。そう考えたイギリスの物理学者パウエルは南米のアンデス山脈の山頂(標高約5000メートル)まで登りました。
そして、1947年、強い力に反応する「湯川粒子」が見つかり、「パイ中間子(パイオン)」と名付けられた。宇宙から降ってきた陽子は、上空で窒素や酸素の原子核とぶつかってパイオンになります。しかし、その寿命はミューオンも100分の1程度しかないので、光速のおかげで時間が遅れても地上まで届きません。途中で壊れたパイオンが、ミューオンとなって地上にやってくるのです。
この発見で、湯川さんは2年後の1949年にノーベル賞を受賞しました。
発見したパウエルも、翌1950年に受賞しています。
★新粒子発見ラッシュで研究者たちは大混乱
この後、パイオン同様、強い力に反応する粒子が次々と見つかった。
「デルタ」と名付けられた粒子は、パイオンを陽子にぶつける実験で検出された。「寿命の短い粒子ほどつくりやすい」という話をしましたが、このデルタはまさにそういう粒子です。せっかく実験室でつくってもすぐに壊れてしまうのです。この時期に検出された新粒子を一括して
「ハドロン」と名付けられた。
ハドロンは、その重さによって、「メソン(中間子)」と「パリオン(重粒子)」の2種類に分かれる。
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「なぜか壊れない粒子」の謎をどう説明するか
同じ時期に見つかった奇妙な粒子は、宇宙線の中から見つかった
「v粒子」と名付けられた。寿命がやけに長い。デルタと比べると、13桁も長い。
v粒子は強い力でできたことは間違いない。しかし、強い力で出来た粒子は、みなデルタのように短命になると思われていました。それなのに、
v粒子はなかなか壊れないのか?
そこで、この現象を説明する理屈として考え出されたのが、「ストレンジネス」(奇妙さ)という性質です。これは一種の「保存量」のことです。
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陽子の寿命は宇宙の歴史よりとんでもなく長い
陽子は陽電子に壊れません。そこで、シュトウッケルベルクという物理学者が考え出したのが、「バリオン数」という保存量でした。
陽子のバリオン数は「1」、電子と陽電子は「0」とされました。だとすれば、陽子はバリオン数の保存則を破らない限り、陽電子に壊れることが出来ません。
まだ、陽子崩壊は観測されません。宇宙の歴史より、陽子の寿命のほうが24桁も長いのです。
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思いつき自体がストレンジなストレンジネス保存の法則
陽子の「バリオン」にあたる保存量として考えられたのが、「ストレンジネス」でした。
ストレンジネスは、強い力では保存されるが、別の力では保存されない。その別の力が「弱い力」です。
v粒子はストレンズネスがあるので強い力では崩壊しないが、やがて弱い力の作用で壊れてしまうーこれが、「西島=ゲルマンの法則」の出発点でした。
一見その場しのぎのように見えるストレンズネスも、今ではその思いつきが正しかったことがわかっています。
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陽子・中性子はクォーク3つ、中間子はクォーク2つ
1956年、
「坂田モデル」=たくさん存在するハドロンがすべて素粒子だとは思えないので、陽子・中性子・ラムダ粒子の3つを基本粒子だと考え、ほかのハドロンとは区別する。3つ目の「ラムダ粒子」とは、v粒子が「逆v字」に分かれた後の片割れです。(もう一方はK中間子)。従って当然、「ストレンジネス」を持っていると考えられます。
同じ時期に
「クォーク理論」=アメリカのツワイクが提唱した。
基本粒子を3つと想定するのは坂田モデルと同じですが、彼らはハドロンよりも小さい粒子だと考えた。
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クォーク理論を裏付けた「11月革命」
1974年11月、アメリカ東海岸ニューヨーク州のブルックヘブン国立研究所(BNL)では、標的に陽子をぶつけて電子と陽電子を生じさせる実験から、非常に寿命の長い
メソン(=j粒子)を検出し、それが電子と陽電子に崩壊するのを確かめた。
11月12日論文を発表した。
西海岸のスタンフォード大学の加速器センター(SLAC)では、電子と陽電子を衝突させて、ハドロンを生じさせる実験から、やはり、寿命の長い
メソン(=プサイ粒子)を検出した。
11月13日論文発表した。
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強い力を伝えるのはグルーオン
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クォークを取り出せないのはグルーオンの色荷のせい
クォークを取り出せないのは、強い力を伝えるグルーオンが、それ自体も「色荷」を持っていて、グルーオンがぐるを吸ったりはいたり出来るのが原因です。
ハドロンからクォークを取り出そうとして引っ張ると、クォークとクォークのあいだを行き来するグルーオンたちがお互いをお強い力で引っ張り合います。このとき働く力は、クォークとクォークの距離が離れるほど、強くなる。というわけで、クォークはハドロンの中に閉じ込められ、外へ出ることが出来ません。
また、逆にエネルギーを高めるほど(距離が近くなるほど)クォークがほぼ自由に動きます。
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クォークが元気だから体重が増える?
陽子と中性子の質量は当然それを構成するクォーク3つの合計になるわけですが、これはクォークの運動エネルギーの合計です。ハドロンの内部では、クォークがグルグル動き回っていて、「E=m2」の公式どおり、そのエネルギーが質量としてカウントされるのです。
もちろん私達の体もハドロンのかたまりみたいなものですから、全身でクォークが運動しています。